Something blue

無断転載禁止・AI学習禁止(サイト名:蟄虫啓戸)

「いい結婚式だったな」

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 楽しそうな声に兵太は隣りを歩く千里へ目を向ける。大地の結婚式の二次会を終え、兵太と千里は二人で帰路についていた。まさかこんなに早く大地の結婚式に参加する日が来るとは思わねーじゃん?と続けた千里の言葉を揶揄うように兵太は笑った。

「大地の為にチャペル建てたやつが言うセリフじゃねーだろ」

「それは偶々だっつの」

 そう言ってやはり笑う千里に兵太は少し呆れた目を向けてから口元を緩めた。ここまで色々なことがあった。そう、色々だ。大学三年、就職活動に集中しようと決意したところにABレコードの吉見が現れた。大地はああ見えて頑固で絶対に自分の意見は曲げない。そのくせ、自信がない。厳格な父に、何でも卒なくこなす幼馴染の千里を見て育ってきたから、恐らく完璧主義的な部分があるのだろう。千里の脱退後、初めは不安そうにしていた大地もメジャーデビューの準備で忙しくしている内にいつもの調子を取り戻した。そしてあの頑なさと我の強さに振り回されつつも必ず思ったことは今までよりも強く伝えた。それは「アイツ言質取るから流されてしこり残すなよ」と編入留学の準備をする千里から俺と伊佐へのアドバイスでもあった。そうしていく内に大地の顔つきも変わってきて留学が決まった千里を翌年の夏に見送ったあと大地に彼女が出来た。告白された時の大地の慌てようとそれを知った吉見との長い話し合いを思い出し、兵太は思わず眉根を押さえる。結果としてビジュアル面を売りにしているわけではなかったからバンド活動に影響がなければ、と恋愛面については個々に委ねられた。別に隠す必要もないだろうと公表も「させた」。させた。大地は顔に出るタイプだし言わずにいてもあとあと面倒だから。今では伊佐も彼女持ちで先程二次会終わりに二人で帰っていった。で、こうして自分は千里と独り身同士の帰り道だ。

 千里はというと当時どの国へ留学するか悩んだ末にアメリカの大学を選び、研修や長期休暇を利用してイギリス、イタリア、ドイツ……とヨーロッパの建築学も学んでいたようだ。気まぐれなグループLIMEのメッセージと大地から聞いた話だ。アメリカで二年間を過ごし帰国後は大地の親父さんの会社に入社している。そして昨年千里が手掛けたチャペルで大地は四年の交際を経て恋人と今日結婚したのだった。バージンロードの赤の先で緊張しながら新婦を待つ大地の姿に眉根を押さえていた手を離すと兵太は目を細めた。

 千里は何やら深く考え込んでいるような、感慨に耽っているような兵太を横目で盗み見てから夜空を見上げた。

「……ここに教会を建てよう!みてぇな……?」

「はっ、んだそれ」

 茶化すような言葉に兵太が再び視線を向けるとそこには穏やかな表情で夜空を見上げる千里がいた。

「けじめっつーか、いつも俺の後ろに隠れてた大地を強引に送り出して。メジャーデビューしたあとのお前らの活躍見てさ、今の俺で応えねぇとなって思った」

「だからって教会建てるかよ」

 兵太が茶化し返すと千里は勢いよく振り向いて、おい!と非難するような声を上げた。

「MV撮影に使わせてやんねーぞ」

「それを決めるのは持ち主の式場側じゃん?」

 その言葉に千里は頬を掻いてうるせぇ、とまた笑った。今日はたくさん笑ったように思う。四人で。今も式の様子を思い出しては笑いが込み上げるくらいにいい結婚式だった。自分もあんな風に誰かと結ばれる日が来るだろうか。

 そんなことをぼんやりと兵太が考えていると千里がぽつりと呟いた。

「俺もあんな風に誰かと結ばれる日が来んのかな、」

 兵太が目を見開いて隣りの千里を振り向くと千里も何故か驚いたように目を見開いて兵太を見つめていた。

「やっぱ今のなし!!」

「……いや、別に恥ずかしいことじゃないだろ。あんな幸せそうな新郎新婦を見たら誰だって憧れる」

「兵太も思ったんかよ」

 千里の鋭い返しに図星を当てられた兵太は思わず頬を赤らめて目を逸らした。そんな兵太の様子を見て千里が笑い声を上げたがその声は酷く優しいものだった。

「なんだよ、自分で俺に恥ずかしいことじゃないって言っときながら恥ずいんじゃねーかよ。まぁ、めっちゃ恥ずいわな」

 そう言って鼻歌交じりで歩き出した千里を横目で盗み見てから兵太は俯いて二人揃った足並みを眺めた。

「言わずに言おうと思ったが、ムカついたから言ってやる」

「あ? なに? 大地の文句か?」

 楽しそうに「俺も無限に言えるぜ」と冗談めかした千里を瞼を下げじとりと見据えてから兵太は口を開いた。

「千里。お前の元カノ、大体が俺に泣きついてきたんだけど」

「あー? 俺と付き合ってる内に兵太に惚れちまったからだろ?」

 やはりそうか。そう思っていたのか。めちゃくちゃ腹が立つ。千里の言葉に兵太は口を尖らせた。

「ちげーよ、お前の一番にはなれないって諦めて身を引いてたの。分かってやれよ。あの頃の千里って心ここに在らず、ってことが多かったの自分自身気付いてはいただろ?」

 人が奪ったみてーな言い方しやがって、と付け足して千里の肩を肩で小突くと、千里が足を止めた。

「……悪りぃ。それは、……まじか……。そっか」

「……でも、見つかってよかったな。やりたいこと。今の千里は会うといつも楽しそうだ。いきいきとしてて好きなこと追いかけてる顔してる」

 こちらを向く千里へ兵太も向き直り、顔を上げるとそこには耳まで赤く染めた千里がいた。千里の様子に兵太は思わず目を瞠る。

「照れることじゃなくねぇ?」

「バッッッ!! お前ッ……兵太はそうやって人のことばっか見過ぎ……彼女いんの、」

 何故彼女持ちかどうかという話になるのか。兵太は怪訝な表情を浮かべてからこの状況で?と可笑しくなって口を手の甲で押さえた。

「バカ。彼女いたら、千里とこうして帰ってないわ」

 言った途端、余計に可笑しくて腹を抱えて笑い出した兵太に千里が「笑うな!」と声を上げる。一頻り笑ってから兵太が千里の肩を拳で小突くと千里はその手首を握り締めた。

「……ありがとな。兵太、大地に言ってくれただろ。俺のこと。背中押すように。」

 分かってたんだ。大地のやつ、兵太んとこに行ったなって。

 語るように話し始めた千里の言葉に兵太はゆっくりと目を閉じると耳を傾けた。聴き慣れた心地好い声が兵太の耳に朗々と響く。

「あの頃はさ、自分のやりたいこと考えながら大地の音楽やりたいって気持ちに共感してアイツ見てるとほっとけなくて。だから段々と大地が頑張ってんだから俺もそろそろ自分のやりたい方向行かねぇと。居心地いいからっていつまでもここにいらんねーなって。でも切り出すきっかけ掴めなくて俺も逃げてんなって思ってた時に兵太が、お前が、言ったんだ。「就活する」って。それってすげぇエネルギー使うじゃん? 現実突き付けんのも、自分で受け止めんのも、こえーじゃん? でもお前は違った」

 握り締めた兵太の手を運んで自身の胸にそっと拳を当てると、千里は照れくさそうに満面の笑みを浮かべた。

「すげぇ、俺の胸を打ったわ。流石俺らが認めた最高のドラマーだな」

「……。うん」

 どうにか頷くと兵太ははにかんだ。

「はは、超感動的だろ」

 兵太の素直な反応が嬉しくて千里が言葉を返すと兵太は見る間に真っ赤になってそっぽを向いた。

「お前、バカだろ。くさすぎ」

「あ?! バンドマンてーのはくさいくらい、たりめーだろうが」

 千里が尤もなことを言い返すと兵太は眉尻を下げて肩を揺らした。自分や大地と違い、あまり感情を爆発させる方ではない兵太のあどけない笑顔に千里は驚いたように口を開け、慌てて口元を押さえた。目を泳がせながらも楽しそうな兵太を暫し見つめてから握り締めた手首を離す。それを合図に、兵太がゆっくりと振り向けばそこには何故か再び耳まで赤く染めた千里がいた。その様子に兵太は目を瞬かせてから穏やかな笑みを口端に乗せた。

「自分で言っといて照れてんの?」

「ちげーわ! バカ! ……ちげーわ!!」

 昔よりも縮んだ距離を意外に思いながらもそれを自分達も成長した証だと受け止めて兵太は言葉を探す。この感情はきっと、千里が抱く好ましさと同じだろう。

「また、こうして会おうぜ。お互い忙しいけど」

 そのまま一人先に歩き出し、大地とはまた違う犬種の犬散歩みたいで楽しいしな、と兵太が揶揄ってみせると追いかけてきた千里に背中を思いきり叩かれた。

「来週!! ……な?」

「疑問系かよ。つーか、来週? 早」

 スマホ出せ、と千里が言い二人でスマートフォンと頭を突き合わせながらスケジュールを確認する。触れそうな程に近い距離にお互い気付かずに。

「新郎新婦は結婚式のあと絶対疲れるから休むようにって吉見さんが気にかけてくれたのと式後の方が良い画が撮れるって撮影関係は週半ばからだな。レコーディングは大地の作業が早いから先行しててマスタリングまで終わってるけど新曲リリースまでは忙しい」

「なんだよ、会えねぇじゃん」

 そう言って顔を顰めた千里がスマートフォンから顔を上げると、同じく顔を上げた兵太と視線が交わった。前髪と額が触れ合う予想外の間近な距離に互いの瞳が揺れる。

「会いたいの、」

「会いてぇけど? 先に会おうって言ったの、兵太だろ」

 それは都合がつけばという意味であり、頻繁に会うことの難しさも含んでいたのだが。そう兵太が困惑していると千里の薄く紫を重ねたような青い瞳が兵太の背後を見上げた。不思議に思い、兵太が振り向くと自分達─Rad Red─の広告看板があった。

「なぁ、看板よりも目の前に本人いんだけど」

 兵太の何気ない一言に、千里は目を瞬かせてからはにかんだ。優しく細められた千里の瞳を見つめながら兵太は自身の言葉の真意に気付いてしまう。

 会いたいと思ってくれるのなら、看板なんかじゃなく今目の前にいる自分を見てほしい。

 そんな思いを抱くことへの驚きと、そんな自身の思いに応えてくれた穏やかな青い瞳から瞳を逸らせない。

「俺、兵太のこと好きだわ」

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 ──だから、明日も明後日も会いてぇよ。聴き慣れた声が思いを乗せて兵太の耳に響いた。

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 平凡に、地続きに、運命以上にドラマチックな始まりではなかったからこそ、俺達の新たな関係は始まった。

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  ─了─

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あとがき
おまけのエロがあります。おまけの注意点として吉見さんの性的指向が同性愛者(バリウケ)です。カプ描写は千兵のみなので横恋慕等の描写は一切ありません。吉見さんごめんね。でも兵太と吉見さんのネコ同士の会話書きたかったんだよね。書けてないけど。鍵についてはaboutページから確認お願いします。リンクは右下の本マークをクリックして「>」又は目次ページからどうぞ。
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