「はい次! テンプレヤンキーね、合わせて」

「………幸、」

 テキパキと手を動かす幸の目まぐるしさは見ているこちらまで忙しない気持ちになる。同じく横で動き回る太一と莇を眺めながら自分はこの動きについてはいけないだろう、と辟易していると「早くしろ」と注意をされた。注意を受けて十座は自分の衣装を再度眺めると衣装に対する疑問を口にした。幸の衣装に口出しなど逆鱗ものだ。

「なんで俺は腹を出す衣装が多いんだ…?」

 そう質問された幸は振り返って十座をまじまじと見つめた。この質問には太一と莇も思わず手を止める。

「なに? 文句あんの?」

「いや、…幸の作る衣装は毎回すげぇ。俺も着ていて気が引き締まる…が腹を出すのは…もう二十歳すぎた男としては恥ずかしい…」

 言葉の最後は消えそうなくらい小さな声で囁かれた。恥ずかしい、と言った十座に太一と莇は顔を見合わせる。確かに十座に元気で無邪気といったイメージはない。しかし腹筋を出す衣装は十座にとてもよく似合っている。というよりは折角上背もあり鍛えられた立派な体躯を持っているのだ。この魅力を使わない手はない。以前演じたモランのように着込んだ場合、硬派な堅苦しさも相俟って十座は第一印象として〝隙〟がなくなる。勿論それはそれで十座の魅力なのだが、役柄だけでなく衣装で観客に親近感を持たせる印象付けも重要だ。役の枠からはみ出さないバランスを保ちながら遊べるところは遊びを入れる。

 毎回腹を出してるわけでもあるまいに生娘みたいなこと言ってんな!と幸は内心思いつつも意外な告白に思案した。思案する幸の横顔に太一も慌ててフォローをする。

「十座サン! 十座サンが腹筋見せるの俺っちは男らしくてカッコイイって思ってるッスよ! 腹筋って鍛え方とかスタイルの良さが浮き彫りになるけど十座サンの腹筋は人前に出しても恥ずかしくない立派な腹筋ッス!!」

「んーまぁ出せる時は出す方向で。頻度が高いわけでもねーしな。ファンとしては十座さんの腹筋見れんの嬉しいんじゃね?」

 今度はわたわたと慌てた様子の太一を莇がフォローした。〝ファン〟の一言に十座も気持ちが揺らいだようで太一と莇が目配せをし安堵したところで再び疑問が飛んできた。

「けど臣さんも丞さんも腹は出してねぇ。……摂津も」

「あー! そのデカさでうじうじすんな!! 丞とオカンは胸筋!!」

 胸筋カテゴリ。腹筋カテゴリ。適材適所があると説教とまではいかないが幸は十座に一つ一つ説明をし、最後に言い放った。

「ネオヤンキーは華があるからね」

「……………」

 その言葉に十座は分かりやすく表情を曇らせた。十座の様子に幸はそんなことまで張り合うのコイツら?と溜め息を吐く。幸自身、ライバルを持った事がないのでこの張り合う感覚はさっぱり理解ができないが十座の様子にあの言い方は少し意地が悪かったかも、と思い直して口を開いた。

「華がある分、アッチは色々小物や衣装を華やかにして着飾るからそれに対して横に立つアンタには地の良さで勝負して引き立て合うようにしてるんだけど? ゴテゴテにされたいの?」

 顔立ち、体躯、外見での第一印象、役柄での第一印象、そしてその第一印象を覆す演技──

 それらのバランスを見てこの劇団の役者達の魅力を最大限に引き出したいと幸は思っている。勿論役作りより衣装デザインが先行することが多いが毎公演最後まで微調整をし続ける。

「……ゴテゴテ」

「なんならゴスロリでもいいんだからね」

 十座は不思議そうに三人へゴスロリってなんだ?という表情を向けた。三人は顔を見合わせるとゴスロリありかもしれない…と幸と莇が何かアイディアが浮かんだのか書き留め始める。

「合わせまだか? って兵頭かよ…おめーほんと鈍間だな」

 ノックと同時に万里が顔を覗かせると十座限定で発動するお決まりのイヤミを言った。ノックの意味ねーし万里さん外で聞いてたな、と莇が考えていると二人の言い合いが始まった。

「うるせぇ。ノックの意味も分からねぇキツネは野に帰れ」

「兵頭テメェ!!」

 今の十座さんの返しはよかったな、と莇が頷いているとあーちゃんも一緒に止めて!と太一が慌てて二人の間に割り込んでいった。大騒ぎに怒った幸にヤンキー二人は出ていけ!と怒鳴られ、二人揃って衣装合わせは後回しの最後になった。

 閉め出されてから忙しい幸の邪魔をしてしまった、と気まずい空気が流れるも後の祭りである。確かに外で盗み聞きした勢いで乱入する自分も悪いが野に帰れはねーよ…と万里は頭を掻いた。

「………俺の衣装が、」

「あん?」

「また腹筋を見せる衣装だった」

 聞こえてきた通りやはりまた腹筋を出すのか…と万里がげんなりしていると十座は前を向いたまま訥々と言葉を紡ぐ。

「最初はまた出すのか…と思ったが、腹筋は魅せるもんらしい…」

「おー?」

「それに対してお前は人に見せられない腹してる」

「おい!!」

 万里が瞬時に突っ込むと十座は自分で言っていて可笑しくなったのか揶揄うように笑った。珍しく笑いが止まらなくなった十座を部屋戻んぞ、と促し連れ出す。そうして部屋に戻ると万里は十座を思いきり抱き締めた。

「…腹筋鍛えんのやめちまえ。トランス脂肪酸野郎」

「あぁ?」

 万里がどこかいじけたように文句を言うとトランス脂肪酸野郎の悪口に十座が凄んだ。事実だろ、と思いながら万里は十座の肩口に顎を乗せると口を尖らせた。

「俺だけの腹なのに…」

「テメェのもんじゃねぇ」

 そう言いながらも十座は万里の背をぽんぽんと宥めるように摩った。十座が腹筋を出すことが恥ずかしいと感じるようになったのは万里が原因でもある。

 恋仲になり行為を重ねる度に万里が自分の腹筋をなぞるのだ。その行為が思い出されてしまい最近になってようやく腹を出すのは恥ずかしいことだと自覚した。

 そうして腹筋を出す衣装を着る度、万里が公演中に必ず触れてきていたことにも今更になって気付いたのだ。ティグを演じた際はダグと軽口を叩き合うシーンで軽く拳や肘で小突いてきた。

 それはまるで観客への牽制と独占欲のように思えて十座はその事実に戸惑い、思い出しては頭を抱えた。当の万里は十座が気付いていないのをいいことに何事もなかったようにしれっとしていたので余計にタチが悪い。

「何が不満なんだ」

「…惚れてる奴の素肌を人に見せたい男がいるかよ」

「っ……バカじゃねぇか」

「バカで結構。ったく…裸同然の衣装着やがって」

「裸!?」

 裸同然の衣装なんざ着た事はねぇ、と十座が言い返すもハイハイとあしらわれる。あしらわれ、納得いかずにいるといつの間にか万里の手がシャツの中に潜り込んでいた。

「なにしてやがる」

「ん~?」

 十座が困惑していると万里は悪びれた様子もなく唇を重ねてくる。こんなことはお前としかしないのに独占欲を剥き出しにする意味が分からない、と十座は頭の隅で思いながら瞼を閉じた。

 

 

 

「幸と莇いるか?」

 ノックの後、扉の外から綴の声が響いた。どうぞ、と声を掛けると綴と総監督のいづみが瞳を輝かせながら現れ、幸と莇は怪訝な表情をする。

 新たな試みの数々が実現するのは少し先の話。

 Wキャストと聞いた幸は悪戯を思いついたように天使顔負けの笑顔を浮かべたのだった。

 

 

 

 

〝盗み聞きしたら兵頭と腹筋丸出しの衣装を着る羽目になった話〟

 

 

 

あとがき
6周年・0からの招待状ラインハルトの腹丸出し衣装を見て書いた話です。(2023/01/17 Twitter up)
幸くん、太一くん、莇くん三人の組み合わせが好きなので三人が一緒にいる姿を書けて楽しかったです。最近の臣くんと丞さんの衣装は胸だけでなく腹も脇も出していていいですね。健康!筋肉!肉体美! 眼福!!
close
横書き 縦書き