「これ貸してやっから被ってみ」
兵頭十座は差し出されたキャップを暫し眺めてから差し出した先にいる摂津万里へ視線を移した。十座が理解できないと言った表情で睨め付けると万里が大仰に溜め息を吐いた。
「それだよ、それ。ただでさえ目付き悪ぃのにキャップ被ったら更に目付き悪く見えんぞ」
練習。そう言って胸に押し付けられたキャップを仕方なく受け取ると試しに被ってみる。そうして目の前に立つ万里を再度睨め付けた。
「おい、睨むんじゃねーよ! せめて口元だけでも笑え!」
万里は十座に一歩近寄ると十座の口端を左右の人差し指で吊り上げてみる。そうしてキャップのつばの下、十座の表情を覗き込むように首を傾げた。覗き込んだ先にどこか照れたように目を泳がせる十座がそこにいて万里は満足そうに口元を緩めた。満足そうな万里に十座は一瞥を投げると両手を払う。
「客でもないてめぇになんで笑ってやんなきゃなんねぇんだ」
「かわいくねー」
被っていたキャップを奪うと十座の前髪をぐいと後ろへ撫で付け、触れるだけのキスを瞼に落とす。身体を離し、再度十座にキャップを被せると万里は腕を組んだ。
「あー。前髪除けない方がいいな」
この目力で客を誑かしては大変だ、と恋人の欲目と独占欲を発揮させ、万里は一人頷いた。頷き、十座を見遣ると不機嫌そうに眉根を寄せつつも先程のキスに照れが勝ったのか耳を赤くさせていた。
「へぇ。ようやく可愛くなったんじゃねーか?」
そう言って揶揄うように口端を吊り上げると十座を思いきり抱き締めた。が、為すがままでしおらしい態度の十座に一抹の不安を覚える。
「……おい、今回撮影だけだろうけどもし実際配達することになった時は配達先で連れ込まれんなよ」
「バカ言ってんじゃねぇ。そんなことあるか」
じゃあ何故そんなにしおらしいのか、と万里が怪訝な表情を返すと十座はキャップのつばを下げ、顔を隠してしまった。そうして俯くとぼそりと呟いた。
「……お前が、部屋に戻るなり手招きするから」
「は?」
手招きが何だというのだ。一瞬何を言っているのかと困惑して万里は目を見開いた。
そうだ。自分は十座を抱く時、よく手招きをしている。
気付きもしなかった自分の癖に驚いた万里は慌てて十座の腰から手を離すと両頬を包み顔を上向けさせた。
「わ、悪かった……」
「……その気じゃねぇならさっさと離せ」
強がったものの顔を上向けさせられては最早キャップのつばで瞳の奥に灯った劣情を隠すことは叶わなかった。すぐさま顔を近付けてきた万里を無意識のうちに手のひらで押さえつける。
「おい!」
手のひらで押さえつけられながら不満の声を上げた万里がどこか滑稽で十座は苦笑する。
「思わず手が出た。撮影の時、思い出しちまう」
そうして万里から手を離すと瞳で訴える。
〝………だから続きは、〟
自分を映す力強い瞳に言葉の続きを読み取ると万里は被せたキャップを放り投げた。
「結局レントさんとこ連れ込まれてんじゃねーか!」
その後、優勝した茅ヶ崎至・皇天馬の両名からコラボ企画時の話を聞いた万里が叫んだとか。
〝Let's order My sugar!〟
集客イベ「特集:YUM YUM YUM!」にて特集に参加することになったデリバリー十座くんの人相チェックする二人の話でした。「届いた荷物を受け取り玄関が閉まる直前、配達員さんがキャップを外して汗を拭う後ろ姿と綺麗な紫髪を目撃してしまったら惚れてしまう」と騒いだ記憶があります。タイトルは君を注文、注文は君、といった意味ですが英語が分かりません。 My sugarは恋人という意味だそうです。(2023/07/10 Twitter up)