二日後は満月で、今日はまだ十五夜の二日前だから十三夜だ。ただ十三夜、というものは旧暦九月十三日のことを指し、十五夜に続きお月見をする日らしい。そこら辺の知識はいまいちなので今日を十三夜と言うのは語弊があるのかもしれないがそれでも確かに十五夜の二日前であるから今日は十三夜で兵頭の誕生日だ。
俺が決めた。 〝十座〟の名前に係っていい。
誕生日という一日の終わりを一緒に過ごせることは当たり前ではなくてあれだけ嫌だった同室さえも今では密かに悪くはないと感じている。どうにも本人に対しては素直になれないので言ったこともなければ言うつもりもないがそれでも確かに共有できているものは増えている。
「いい一日だった」
自分自身へ言い聞かせているように聞こえなくもないぽつりと呟かれた一言に万里は大学のテキストから顔を上げると共有しているローテーブルに向かって座る十座の背中に視線を向けた。
「次は十五夜だ」
コイツ……今日あれだけ甘いもん食っといてもう次の行事で食える甘味のこと考えてやがる……。
万里は十座の食い意地にわざとらしく溜め息を吐いたところで一つ閃くとウッドチェアから立ち上がり、十座の隣りにしゃがみ込んだ。膝の上で腕を組んでへら、と笑ってみせると十座が訝しげな表情で万里を見遣った。
「兵頭、今から月見しねぇ?」
「は?」
月見にはまだ早いだろう、という疑問と気が狂ったのかと気の毒さを張り付けた表情に思わず吹き出す。笑われたことに対して馬鹿にされる謂れはない、と今度はむっとした十座の様子が面白くて仕方がない。自分の言葉でころころと変わる表情も思考も全てが愛しい。感情が返ってくることを嬉しく思う。
「今日は十五夜の二日前だから十三夜なんだよ。てめぇの名前に似てるだろ」
そう言った万里の表情は年相応のまだあどけなさの残る笑顔にどこか大人びた穏やかな瞳を湛えていて、十座の鼓動が早鐘を打つ。自分自身の無意識の表情に気付きもせずに万里は十座の手首を掴むとぐい、と引っ張った。
「おい、どこで月見すんだ」
「んー? 臣の作ったもん取りに行くのもいいけど、どうせ酔っ払った大人共がぐだ巻いてんだろ。コンビニ行って河原で月見だ」
「蚊がいる」
「あー………」
「コンビニ行ってそのまま屋根はどうだ。三角さんも今夜は酔った一成さんの相手をしてるはずだ」
突然の思いつきへ意外にも応えてくる十座に万里は心底楽しそうに笑うと十座を部屋から連れ出した。一〇四号室の扉を開いた先、中庭から少し欠けて満ちない月を二人揃って見上げると万里はぽつりと呟いた。
「月、綺麗だな」
「………おい」
素直に月を愛でる万里の様子に驚くと同時に発せられた言葉に十座は思わず非難めいた声を上げた。深くなった眉間の皺は期待してしまいそうになる自分を戒める為だ。あ?と呆けた声で返した万里は隣りで目を泳がせ始めた十座を怪訝そうに見つめた。見つめてあっ、と声を上げる。
「お前知ってんのか」
「……綴さんに教えてもらった…」
そう返した十座に万里は世話焼きな脚本家の姿を思い浮かべて顔を覆った。意図して発した言葉ではなかったが、意図しなかったからこそ口を突いて出た言葉なのだろうとも思う。そうして互いに耳を赤く染めている状況に万里は眉尻を下げると十座の指を自身の指で絡め取った。
「十月二十七日も月見すんぞ」
一ヶ月後にまたお前と月を眺めたい。次こそは十五夜後の十三夜月だ。
誕生日でも行事でもなかろうと。見上げた月が欠けていようと。お前と共有するものは特別なものであると、今は思わなくもない。
きっと俺達はまだまだ欠けているくらいが丁度いい。
──兵頭。誕生日、おめでとう。
〝二夜の月に〟
十座くんのお誕生日のお祝いに書いた話です。2023年は丁度十五夜の二日前が十座くんのお誕生日だったので十五夜ネタで書こう!と思い立って書いたものです。本来「十三夜」は旧暦九月十三日の月を指します。十五夜(旧暦八月十五日)と十三夜(旧暦九月十三日)二つの月を「二夜の月」と呼び、豊作の祈願と収穫の感謝のお月見をするそうです。二人の役者が二つの月を眺めて過ごした先どうなったのかは月だけが知ってるのかもしれないし皆にバレバレかもしれない。