「おっ。美味いなこれ」
そう呟いてスマートフォンのカメラで手に持ったそれを撮影する天馬の横顔を見つめた。そのまま写真をインステにアップした様子に口を開きかけて、…噤んだ。そんな自分の様子に気付いた天馬が一瞬目を丸くしたあと手に持ったペットボトルへ視線を戻す。そうして何でもなかったように片眉を上げて笑った表情はどことなく自身の同室相手に似ている気がした。
「十座さんも一口飲んでみるか?」
「……いや、……悪ぃ」
「何で謝るんだ」
天馬の率直な疑問に思わず口を開いては閉じを繰り返す。これではまるで餌を求める金魚ではないか。そんなことを考えながら垂れた前髪を掻き上げると深く息を吐き出す。隣りに座る天馬を振り向くと、気に懸かった思いを吐露した。
「前に何の気無しに上げた写真に心無い噂を立てられたって話を聞いた」
「…ああ。ステマだなんだと言われた件か。よくあることだからな」
「………強いな」
自分の言葉に天馬は再び目を丸くしたあと笑った。
「そうでもない。十座さんだから話すが平気かと言われるとやっぱり動揺はするし自分の投げた言葉に何か引っ掛かる点があったかと考えもする。けど自分の言葉を真っ直ぐに受け取ってくれる奴がいて、気持ちを共有できる時間の方を大事にしたい」
冬の空を眺め紡がれた天馬の言葉にMANKAIカンパニーの仲間達の姿が心に浮かんだ。太一、綴さん、一成さん、三角さん、椋、九門、幸…は『アンタにしては悪くないんじゃない』と素直じゃない様子を見せるかもしれない。そうして最後に浮かんだ一人を想った。
「天馬が、いてくれてよかった」
ぽつりと呟いた一言に天馬は自分の横顔を見つめたまま静かに耳を傾けた。天馬の優しさに感謝をしながら言葉を探す。
「天馬がいて、一成さんがいて、二人と共有できるもんがあって……二人がいるからあいつは誤解されてもこの先も大丈夫なんだろう」
「……十座さん。アンタな」
「なんだ」
呆れた様子の天馬に何かまずいことを言っただろうか、と不安が過ぎる。自分自身余計な事を言っている自覚はあったがどうしても感謝せずにはいられなかった。俺が与り知らぬあいつの関わりに口出しして、余計な世話で、だがそれでもその関わりを自分事のように嬉しく思うこの心は――
「十座さんがいて秋組の皆がいるから大丈夫なんだろ」
天馬の言葉に顔を上げたものの、真っ直ぐに見つめてきた紫色の瞳に思わず目を逸らす。
「……俺にはあいつの気持ちなんて分から「ないわけないよな? 一番誤解され続けてきたのは十座さんだ」
被せられた一言に押し黙る。人は誰しも誤解をされ、誤解をしながら生きている。俺自身、自分を取り巻く〝世界〟を誤解しながら生きてきた。勝手に諦めてきた。だが誤解してきた〝世界〟が変わっていったこれまでの日々を思う。心は取り出せない。見えないものだからこそ分からねぇ。だから言葉はあるんだろう。
「…誤解され続けてきたってのは否定できねぇが」
そう答えると天馬は困ったように眉尻を下げたが目元はどこか可笑しそうな様子で微笑んでいた。
「俺と一成は偶々万里さんとそう言った誤解されやすい状況が似通ってるだけで十座さんも変わらない。同じだ。あー…いや、同じってのは十座さんに失礼か…?」
「んなことねぇ。大も小もない、心が痛いのは変わらねぇ」
「十座さんは痛かったのか?」
天馬の問い掛けに無意識のままに第六回公演を思い返した。俯き、過去の自分を想った。
「……。そう、だな。きっと、痛かったんだろう」
「……でも万里さんに痛覚を引き戻したのは十座さんだぞ」
「あ?」
ぽそりと呟かれた天馬の言葉が聞き取れず、顔を上げる。何と言ったか聞き返そうとしたが天馬は満面の笑みを向けるとベンチから立ち上がった。
「十座さん、今からワッフルでも食べに行かないか? バーガーショップに万里さんと太一がいるらしい。ワッフルバーガー。興味あるだろ」
「………興味はあるが話が途中だ」
「じゃあ歩きながらな」
「おい、雑だぞ」
「ははっ。腹が減ったからな」
背中を向けて既に先を歩き始めた天馬にどうにも話を誤魔化されてしまった気がしてならない。自身もベンチから立ち上がると天馬の背中に届くよう、伝えたい想いをでかい声に乗せた。――周りに人はいないから誰かを怖がらせることはないはずだ。
「天馬。俺が言うのはおかしいって分かってる。けどあいつといてくれて、……ありがとう」
「……。十座さんって、」
「……やっぱ、見当違いだったか…」
振り向いた天馬のどこか呆れたような、困っているような様子に間違ったかもしれないという不安が口を衝いて出た。だが直後、天馬から放たれた言葉に目を瞠った。
「いや。じゃあ俺がもし同じことを言ったらおかしいと思うのか?」
「……思わねぇ」
「俺だって十座さんがいてくれてよかったって感謝する日が必ず来る。というよりもう何度もある! それは九門や椋だけじゃない。この先、幸や三角や一成のことでも! 太一や綴さんのことでも! 巡り巡ってるんだろう、きっと」
再び先を歩き出した天馬の声は最早板の上で発する程の声量で、真っ直ぐによく響いた。身振り手振りに合わせて届いた言葉に呆気に取られていると先を行く天馬が悪戯げに笑い、またくるりと背を向けた。
「十座さん! よーいドン!!」
突然の合図と共に走り出した天馬に驚き、声を上げる。
「なっ…!? ッ天馬! スタート位置の差がでけぇ!」
「ボケっとしてる十座さんが悪いんだろ」
「迷子のくせに生意気言ってんじゃねぇ……!」
悪態を吐くと走り去る背中を追い掛けるべく、思いきりアスファルトを蹴った。
▽▼▽▼▽▼
「うお、なんか走ってきたぞ」
「鬼ごっこッスかね?」
「知らねぇー。ははっ負けんな、天馬」
「……万チャン。十座サンに自分以外が勝っちゃってもいいんスか?」
「……あ?」
ハンバーガーに齧り付こうと大口を開けたままの姿で万里は固まると次の瞬間にはガタリ、と座っていたスツールを蹴飛ばす勢いで立ち上がった。立ち上がり、店のドアを思いきり開けるとドアベルが楽しそうな声を響かせる。
「テメェら!! 歩道で迷惑行為してんじゃねぇ!!」
店のドアを開けて叫ぶ万里の背に太一は三人揃って迷惑ではなかろうかと眉尻を下げて笑いながらも目の前のご馳走が冷めてしまわぬようハンバーガーに齧り付いたのだった。
─了─
〝人が人を想う時〟
大学帰りの十座くんと天馬くんの話でした。痛覚さえも見失ってしまった万里くんを引き戻したのは十座くんという事実をバーイベVLOGの件(満開Party万里くんバクステ)で知っている天馬くんを書きたかったんだと思います。二人の会話がほとんどですが一応摂兵二人はお付き合いしてます。いつupしたか記録が残っていないのですが作中の季節が冬とのことで背景色を空色から天色のグラデーションにしてしまったので夏感がすごい。