花屋の軒先で腕を組んだところで聞き慣れた声が響いた。
「花言葉なら任せて」
振り向くと柔らかな表情を浮かべる月岡紬がいた。柔らかな表情とは裏腹に声音はどこか愉快そうに弾んでいる。
「……別に見てただけなんで」
隠し通せもしない照れ隠しの言葉を紡げば目を丸くしてから紬さんは再び柔らかな表情を浮かべた。
「ごめんね、万里くん」
「謝ってる割に悪いと思ってないっすよね」
「あはは」
そう言って頭を掻くと紬さんはとある花を指差した。
「紫のフリージアがいいんじゃないかな」
「花言葉は?」
「色で選んだから花言葉は関係ないよ」
「任せてって言ったじゃないすか。それに紬さんぜってぇ花言葉分かってるっしょ」
疑問へ言葉ではなく笑顔を返され釈然としない様子で突っ立っていると紬さんは店内に入っていった。一つのフラワーポットへ真っ直ぐ歩を進めるとそれを抱え上げて手招きした。
「何の花すか」
「アップルブロッサムって品種のゼラニウムの花だよ」
「花同士が集まってボールみてぇ」
「ふふ。寄り添っててかわいいよね。俺たち冬組みたい」
そう素直に言える真っ直ぐさにこちらが照れてしまう。恥ずかしい、といった様子で気まずそうな表情を浮かべると紬さんは楽しそうに笑った。
「折角のバレンタインなんだから」
「……監督ちゃん」
「カントクには今朝皆で花を贈ったじゃない?」
今朝、二十四人で花を贈った。いつも自分たちを満開に咲かせてくれる総監督へ。
だと言うのに、今こうして花屋に足を運ぶワケは──
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「紫色なのがすごく、らしいと思うんだよね」
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しゃがみ込んで唸ってから目の前のフリージアをじっと見つめる。
「ミニブーケにしてもらうといいよ」
「自分で、決めるんで……」
項垂れてどうにか悪足掻きの一言を絞り出すと「うん」と返事が一つ降ってきた。そのままゼラニウムを抱えてレジへ向かう気配を感じながらフリージアに向かってぽつりと呟いた。
「なぁに、紫色してんだよ」
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帰宅後、何も言えずに共有のローテーブルへ置いた花束を見てどこぞの大根役者は寄ってくると、肘を突いてそっぽを向く自分へキャンディのように包み紙で包まれたチョコを差し出して呆れたように鼻で笑った。
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─了─
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〝特別かもしれないお前と、迎えたとある日に〟
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バレンタインのお話でした。海外では様々な関係同士(家族、夫婦、カップル、友人)で花やプレゼントを贈り合う日なのと、花のような彼らが花を贈る姿が好きなので書きました。何度でも花を贈る話を書きたい。摂兵は付き合ってます。
ゼラニウム:尊敬、信頼、真の友情、育ちの良さ
フリージア(紫):憧れ
リンツのチョコ、でかいよね。