中秋の名月を待ち侘びて夜空を見上げる機会が増えた。指折り数えて待つ日々を待つだけで終わらせず、月齢や月の満ち欠けに月見団子の由来を調べて楽しんでいる仲間たちの姿を思い出し、万里は目を細めた。まだまだ暑さは続いているものの、日が落ちれば涼やかな風が吹く。この時期、この時間、湿気を孕んだ空気を攫うように吹く風が万里は好きだった。その風が〝なにか〟に似ているような気がして目を閉じたと同時に行き当たった記憶に万里は眉を顰めた。その記憶は烈火の如き怒りと同時に濁流が土砂を流し込むように胸の内に蟠った。今ではその痞えは――形を変えたのだが、それが胸を撫ぜる感覚は湿気を孕んだ空気であり攫う風だった。
夜空を見上げそんなことを考えながら隣で腰を下ろしている相手へ言葉を投げた。
「そろそろ行くぞ」
見下ろした視界の端、夜闇の中で少し先の茂みに咲く彼岸花が風に揺れた。
「星が綺麗だ」
そう溢した、瞬く星と同じ金色の瞳は囚われたように夜空を見つめていた。
「……なら捕まえちまえばいいんじゃねぇの、」
その言葉に十座は瞬きをしてから首を下ろした。そうして隣に立つ男を見上げると澄んだ青色の瞳はその色を深く塗り潰した夜空を見上げていた。
星を捕まえる。そうだ、星が綺麗だと吐露することは――相手への憧れを伝える意味があるのだと以前綴さんが言っていた。憧れに届かないままで終わるわけにはいかない。だがしかしそれは。言葉に隠された意味を知っての返しか分からず十座が落とした視線を再び上げるとこちらを見下ろすもう一つの空に行き当たった。それが得意げに、満足そうに、笑っている。
「てめぇ……!」
思わず声を荒らげた十座に万里が声を上げて笑った。絶対に捕まえてやる。そう決めると二人揃って秋の始まりを告げる夜風と共に走り出した。
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追いかけるのも追いかけられるのも今ではお互い様へと形が変わった。形が変わり意味が増えても、ずっと変わらないものがある。そして――
どうやら、捕まえてもいいらしい。確かにその方が楽しそうだ。
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追いかけて追いついて、駆ける二つの星に、季節が寄り添っていた。
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─了─
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〝芒刈りの帰り道にて〟
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今年の十五夜は十月六日です。つくてめさんの準備で色々書いているので季節先取りの話になりました。イベントを待たずにこれだけはアップします。最近更新頻度も低いので……。
「月が綺麗ですね」は既に書いたのでずっと書きたかった「星が綺麗ですね」を書きました。こちらの二人はお付き合いしていません。が、摂兵です。
憧れに駆られる姿はよいものです。二人の場合、駆られるの意味が二重になるのもいいですね。一生一緒にいてほしいな。