或る一時
親父殿は船長役にも執着があったようで、それは崇拝する脚本家・斑鳩八角が海賊ものの舞台を気に入りとしていたからだった。
新生MANKAIカンパニーの公演映像を一旦停止すると天立甲は不敵な笑みを浮かべた。
「事実は小説よりも奇なり。役者がこうも出揃うといっそ清々しいもんだ」
彼の劇団で海賊が出てきた公演は二つ。一つは斑鳩八角の孫にあたる斑鳩三角が船長役を演じ、もう一つは。その忌々しき劇団を陥れようとした際に都合が良かった取るに足らない役者だ。──親父殿にとっては。斑鳩八角が構想していた脚本案は現在劇団で座付き作家を務める皆木綴、そして三角と同じく孫にあたる脚本家の斑鳩円により完成され、船長役に据えられたのは天立桂樹が都合よく利用した摂津万里と来たもんだ。何の因果か。本人が仕上げたわけではない過去の遺産も、取るに足らない存在も。紛い物に、海賊など、船長役など、分不相応だという怒りもあったろうか。まぁ今更、そんなことはどうでもいい話だ。
さて、次の面会日はいつであったか。まだ先の話ではあるが、天立桂樹が外に出てきた時に演劇界がどれほど変化しているか。──自分もその一端を担っている。
「楽しいな、親父殿」
満足そうに口端を吊り上げたのち、天立甲は悼むように目を細め苦笑を浮かべた。
─了─