声に乗せるまで
同室相手が立て始めた寝息に摂津万里は閉じていた目蓋を開き、天井を見つめた。こんな日に限って鼾も歯軋りも立てない頭の先にいる男に万里は胸に去来する形容し難い感情を吐き出すように息を吐いた。そうして上体を起こすと十座を振り向き見る。寝息を立てる横顔を暫し見つめたあと万里はベッドの柵に背を預けた。
入寮してからこれだけ長い時間を離れて過ごしたのは初めてのことだった。総監督による劇団と劇団員を守る為の決断。寮から離れ与えられた時間の中で─まるで昨日の出来事のように甦るあの配信を経たからこそ─改めて劇団に入ってからの自身を振り返ることができた。
そうして辿り着いた先に居たのは、〝兵頭十座〟だった。
天立甲の問い掛け、天美での生活、家族との関わりの変化、MANKAIカンパニーの仲間達、そして秋組の仲間達……── 自分はあの日、あの時、原体験は秋組のポートレイトだと答えた。そこに隠したもう一つの真実。
隠した真実へと意識を巡らせた万里は思わず顔を歪めた。巡らせた先に抱く感情が嫌悪だけではないのが余計に腹立たしい。嫌悪に混じる喜びに。虚で何も無かった心が満ち足りていく感覚に。痛みを伴い始めた心に。そこに居たのは、それを与えたのは、暫く離れることが決まり清々するはずだった男の姿だ。
万里は乱暴に頭を掻くと共用スペースの方へ身体を向き直した。再び盗み見た横顔はどうしようもないくらい万里を安堵させ、奥底に隠した本音をいとも容易く言葉という形として露わにした。
「お前がいれば大丈夫なんだろうな、俺は」
口を衝いて出た言葉に口元を押さえた万里は十座から目を逸らした。言わなければよかった。いや。言うつもりなんざなかった。ちくしょう。
自分に腹を立てながら万里は逃げるように布団へ潜り込む。潜り込んでいる際に向こうからも寝返りを打ったような衣擦れの音が聞こえた気がしなくもない。きっと気のせいだろう。
今夜の出来事は全て気の迷いだ。
✴︎
「おい。昨日のあれはなんだ?」
「………は?」
朝食を済ませ自室へ戻った万里は同じく自室へ戻ってきていた十座から突如疑問を投げかけられ、その意味を理解できず眉根を寄せた。
「……昨晩、話しかけてきただろうが」
「はぁ? 誰がテメーに話しかけるかよ。夢ん中に俺を出演させんじゃねぇ。出演料取んぞコラ」
「ああ゛?」
万里の言葉に十座は眉間の皺を深くしたものの万里の挑発に乗っては疑問の答えは返ってこないと判断し更に突っ込んだ質問を投げかけた。
「『お前がいれば大丈夫』ってのはどういう意味だ?」
十座の真摯な眼差しを万里は正面で受け止め睨み返すと、動揺など微塵も覗かせずに言い放った。
「ハッ。んだ、それ? 随分と鮮明な夢じゃねーかよ」
暫く視線を逸らさず互いに瞳を射抜いていたが先に十座が視線を逸らして背を向けた。
「……俺の聞き違いならそれでいい」
目を逸らさず睨み続けていた万里は十座の背を遮るように扉が閉じられた途端、深く息を吐き出してしゃがみ込んだ。項垂れて後ろ髪がかかる項を掻いた。昨日の言葉を聞かれていた。納得していない様子は残るものの、咄嗟に誤魔化したことで素直に引き下がった十座に命拾いをした。だが時間を空けて蒸し返されるのは間違いないだろう。
絶対に認められない。認められるわけがない。自分だって言うつもりのなかった言葉なのだ。それをなんで、聞いてんだよ。
「クソッ……鼾も歯軋りもしてねぇ時は狸寝入りってことかよ、あのヤロー」
悪態を吐いたがそんなものはただの言い掛かりで虚しさしか残らなかった。早く忘れてしまえばいい。自分も早く忘れてしまおう。あんな言葉、覚えていたところで何の意味も── そう切り捨てるにはあまりにも長い時間と多くの感情を込めてしまった言葉に万里は再び深く息を吐く。どうしてそんな言葉を無意識のうちに口にしてんだよこの馬鹿野郎が。
己へ文句を吐き捨てて立ち上がると万里も自室を後にした。一〇四号室に数え切れぬほどの思いを残して。
✴︎
「十座。十座、」
自分を呼ぶ声にはっとし顔を上げた兵頭十座は隣で不思議そうに自分を見つめる皆木綴へ視線を合わせた。─葉星大学の食堂。向かいでは皇天馬と七尾太一が満開公演の話題に花を咲かせていた。
「考え事か?」
「何でもねぇっす。……いや。綴さんは鮮明に夢の内容を覚えてることってあるか?」
「おー。よくあるぞ」
迷うことなく答えた綴に十座は思わず目を瞠る。その様子があまりに驚きに充ちていたのか綴は目を丸くしたあと柔和に目を細めて笑った。どこか気恥ずかしそうな様子に十座は瞠ったままの目を瞬かせると無意識に首を傾げた。
「俺はよく白昼夢みたいに突然自分が想像した物語に入り込んでく癖があってさ……。両親や兄貴達は笑ってたけど水野や小学校の先生にはよく心配されたっけなぁ」
綴の言葉に十座の目元が穏やかに和らいだ。十座のその和らぐ目元に、穏やかな表情に、出会える度、綴の心は温かく優しい熱を帯びた気持ちになるのだ。
「物語や登場人物のこと考えてたって話すと水野はすぐに嬉しそうに笑ってくれて。あー、話が逸れたな。だから夢も白昼夢の延長みたいな感じで書いてる時に煮詰まると登場人物が出てきたりするしはっきり覚えてたりするな。そこから着想を得たり」
──励まされたり。これは話せないな、と綴は眉尻を下げて笑う。綴を見つめながら十座が「すげぇな」と感嘆の声を漏らすと綴は慌てて両手を突き出した。
「いやっ! すごくはないぞ」
寝落ちるまで書くな、と真澄を心配させてるし……。碓氷真澄の進学した大学に先の満開公演の脚本を共に仕上げた斑鳩円がいてよかったなどと意識を色々な方向へ飛ばしていた綴は一度首を振ると十座を見つめ返す。しかし見つめ返した十座の瞳が翳りを見せて伏せられ、綴は両手を膝上に下ろした。
「……じゃあ夢で言われた言葉が現実に思えてどっちか分からねぇって経験もあるんすか?」
「そういうことも多いけど俺の場合は登場人物に限った話だから目が覚めて現実じゃないって判別はできるな。現実を夢に見ても過去の出来事を整理してる感じだし」
いつの間にか二人の会話に気付き、正面に向き直っていた天馬と太一は目配せをしてから太一が口を開いた。
「俺っちは寝言言ってたぞって臣クンがたまに教えてくれてめーっちゃ恥ずかしくなるッス! でも肝心な夢の内容は覚えてないんスよね」
「俺は声が聞こえて思わずハッと目を覚ましたら幸と太一が衣装で根を詰めてる会話だったりするぞ」
天馬の一言に太一が両手を合わせるも綴と天馬から感謝を述べられ、太一は頭を掻いた。「幸チャンにもちゃんと伝えないと!」と意気込んだ太一に天馬が首を振ると綴と太一は顔を見合わせて苦笑した。三人の会話に耳を傾けつつ傷が走るテーブルを凝視していた十座は一昨日の晩を思い起こすと口を開いた。
「……天馬と似た状況だと思うんだが相手が起きてたかは確認してねぇ……」
「「万里」「万里さん」「万チャン」の寝言?」
「………。あいつのことだとは言ってねぇ」
三人の声の揃った一言に十座は不機嫌な声で返した。十座がうまく切り抜けたと安堵している一方で聞いていた三人は十座の様子にただ一人の同室相手で確定だと得心する。万里が寝言を口にするイメージが湧かない三人は揃って腕を組んだ。
「目が覚めたんだよな?」
「一応、覚めてたっす。気配がして起きた」
「なっ! ま、まさかオバケじゃないだろうな?!」
「だから寮での話とは言ってねぇ」
「で、で、で、でもっ!! 実家での話ならその幽霊、十座サンに憑いてきちゃったりしてないッスか!?」
「太一!! やめろ!! そんな想像するな!!」
慌てふためく天馬と太一に綴が呆れたように笑うと十座はテーブルに片腕をついて二人の背後の虚空を睨み付けた。
「んなの居たらぶっ飛ばして引き剥がす。まぁ事情は聞くが……」
十座の言葉に天馬と太一は平静さを取り戻すとそういう所なんだよなぁ、と綴と三人揃って眉尻を下げた。そんな三人を余所に十座は虚空を睨み付けたまましみじみと呟いた。
「やっぱりはっきりさせねぇと納得がいかねぇ……」
その様子にやはりただ一人の同室相手であると確信した三人は万里を思い、静かに頷いたのだった。
✴︎
「はっくしょい!!」
「………セッツァーのくしゃみって男らしいよね」
「あ?」
綺麗な顔立ちに似合わぬくしゃみに学生数名の好奇の眼差しが向けられる。不躾な視線から意識が逸れるよう三好一成は隣を歩く万里へ笑顔を向けた。身形に気を遣い自分磨きを怠らない万里のそういった無頓着さを一成は尊敬し好んでいる。
「誰か噂でもしてんのか?」
「ん~心当たりのある出来事でもあったカンジ?」
一成の一言に万里は無言で顔を歪めた。この態度で隣の一成が瞬時に察しただろうと分かりはしたが万里は無言を貫いた。無言を貫く万里に一成が笑う。
「褒められちゃったかも?」
「誹りの方かもな」
目蓋を下げて呟いた万里に一成は目を細めるとコートのポケットから飴を取り出して万里へ手渡した。
「サンキュ。……あれ以来、俺個人でインステ配信してるだろ? 結構色んなメッセージくれてよ」
「うん。聞いてるとすごくセッツァーとファンの皆の距離が縮まったんだなって感じるよん」
「ああ。どう足掻いても俺は俺っていう一人の人間なんだなって」
「誰だって相手の全てを理解することはできないけど、言葉にして伝えようって意志や想いは届くんだってカントクちゃんに出会って夏組の皆、カンパニーの皆と過ごしてオレも知ったかな」
未だ煙は消えない。勝手な憶測も尾ひれもついて回る。表向きは鎮火しただけで燻ったままの裏側が存在することも万里自身そして隣を歩く青年も知っている。けれどあの配信は確かに在りのままの自分を証明する一つの形だ。それが気に入らないならそれでいい。勿論俺自身、俺を象る全てを曝け出せはしないのだからと万里はそう思う。そうして一昨日の出来事を思い返した。
「…………。墓場まで持ってくモンとか一成はあったりするか?」
「エッ! この歳で!?」
「あー! やっぱなし。忘れろ」
万里は慌てて言い返したが、また口を衝いて言葉に出してしまったと思わず頭を抱えた。今はそういう時期なのかもしれない。どうにもMANKAIカンパニーは、MANKAI寮は、自分の気を緩ませるようだ。
「忘れないでしょ! 墓場まで持ってく前に出しときなって!!」
「うっせ。出さねーよ!!」
「ヒョードルにも素直になろうよ~」
「ア!? 誰の話してんだ!!」
一成が口にした名前に万里は思いきり振り返るとあいつのことじゃねーからな、と念を押した。念を押す万里の様子に一成は嬉しくて擽ったくてどうしようもない気持ちになる。自身が定期的に十座へこの天鵞絨美術大学で開催されるワークショップ情報を提供していることに気付いていながら万里は口を出さなかった。悪態を吐きながら二人揃って帰宅をする。それが答えだと一成は思う。墓場まで持ってゆく気持ちの形は分からないが死んでも負けないようだからきっとお迎えが来ようとその先でもまた一緒のはずだ。
「セッツァーごめん! 分かったって! お詫びに帰りは新しくできたキャンディショップ行こ? ヒョードルにお土産買って帰れるし」
「おい!!」
噛み付くように顔を近付けてきた万里に一成は楽しそうに笑った。唯一無二に、墓場へ行く前に届くといい。
✴︎
「おい。てめぇ嘘ついてんじゃねぇ」
再び始まった十座の追及を背に受け、万里は不機嫌そうに眉を寄せた。キャンディショップで購入した棒付きキャンディを歯に当てわざとらしくカラコロと音を鳴らす。苛々とした万里の様子に十座も思わず声を荒らげた。
「だから一昨日の晩、俺に話しかけたことを聞いてんだよ」
「っるせぇな! 話しかけてねーつってんだろ!」
「……。怒るつーことは不都合なことでもあんのか」
核心に迫ろうとする十座に万里は口に含んでいた棒付きキャンディを手に取ると小馬鹿にしたように息を漏らした。
「例えばお前が聞いた言葉とやらを俺が言ってたとして? お前に向けたもんかなんてどうやって分かんだよ」
「それは、」
十座は万里の一言にはっとすると押し黙った。万里自身、素直でないどころか十座を責める形になった状況に反吐が出るような気分だ。情けないどころの話ではない。昼に見た一成の嬉しそうな笑顔が過ぎった。
「……ふん。勘違いお疲れさん」
万里の言葉を最後に言い合いは収束した。後ろ暗さから一度も姿を見ることはできなかったが、出て行ってしまった同室相手の様子から今日はもう自室に帰ってこないかもしれない。いや。自分と違い行くあても巧い口実も作れない十座に、誰に対しても気を遣う十座に、万里は前髪を鷲掴む。
「……ムキになって間抜けすぎんだろ。こんなんお前宛だって言ってんのと同じじゃねぇか……」
けれど十座はそれに気付かない。気付かないことに、傷付いた気配に、胸の奥がじりじりと焼かれるような思いだ。言った言葉も行った行為も取り消せない。受け取り方は受け取った相手の物の見方に依る。印象操作されたくせにこのザマだ、と自分に呆れ果てながら万里は十座を想う。
転がされて二週間ずっと悔しくて仕方がなかった。再び相見えたというのに防戦一方な兵頭に更に悔しさは募るばかりだった。毎日学校帰りの兵頭を追い掛けては喧嘩を売った。それでも変わらない兵頭の態度に痺れを切らしていたその日── 兵頭が向かった先は予想だにしない場所で面食らっていた俺はそのまま勘違いした支配人にMANKAI劇場のロビーへ引き摺り込まれ、そうして成り行きで参加したオーディションから俺の演劇人生は始まった。
毎日苛々していた。芝居に本気で取り組む兵頭と左京さんに、何かを隠しながらも人懐こく笑う太一と臣に。兵頭の不器用さと大根ぶりに沸き上がる怒りと嘲笑は虚しさを募らせ、芝居へ真摯に向き合う姿と馬鹿みたいに真っ直ぐな情熱からは目を逸らした。
目を逸らしながらも四人の芝居に対するベクトルの違いだけは外野だったからこそ察しがついた。そこからポートレイトを見て、その明確な違いに気付かされた。後ろめたさを抱える三人へ感情移入なんてもんを抱くほどあの頃の俺は人間ができちゃいなかったからせめてリーダーとして、兵頭に負けたくねぇ想いで、目の前のことに必死でしがみついた。
そうして溢れ落ちた三人の本心からのポートレイト、GOD座とのいざこざに目の前にいる奴らが生身の人間で誰だって裏側に隠してるもんがあるって理解した。そんな当たり前のことを当たり前のように理解してる気になってただけだった俺に生身の人間の裏側を、生々しい本心を、見せつけてきたのは
──兵頭だった。
だから太一、臣、左京さんにも気付けた。三人を知った。まぁ左京さんは監督ちゃんとコソコソやってたから旗揚げ当時は本心だのいまいち分かってなかったけど。
第二回、第三回、第四回、第五回─── 色んな役を演じてきたが第六回公演の脚本を読み終えた直後、皆木綴を訪ねた。
✿
『綴、今時間あるか』
『万里から声掛けてくるなんて珍しいな』
そう言って笑うと綴は万里を自室に招いた。
『真澄は?』
『真澄なら監督の為にカレーの試行錯誤中だ。俺が執筆中ずっとカレー作れなかったから……』
目を伏せて溜め息を吐いた綴に万里は乾いた笑い声で返した。真澄のデスクチェアを借り、劇団の脚本家と向き合うと万里は本題を切り出した。
『今回の、……〝Fallen Blood〟の配役について脚本家の意図を聞いてみたいと思った』
『直球だな』
『……たりめーだろ、なんつーもん書いてんだよ。ミックス公演の時、至さんが言ってたことようやく理解したわ』
茅ヶ崎至が話題に上がり、綴はミックス公演がどうかしたのかと不思議そうに首を傾げた。疑問を浮かべる綴をそのままにして万里が再度訊ねると綴はうーんと腕を組んだ。
『意図……。意図って言われてもな。そうやって真正面から問い掛けられたのって初めてかもしれないな』
『皆、綴が書いたもん好きだからな。俺も嫌いじゃねーし』
『ははっ。ありがとな。今まで月岡さんと高遠さんに軽く質問されたことはあったけど俺は俺が書いたものを読んだ役者自身が想像を膨らませて役を作り上げていくことを楽しみにして書いてるからそんな意図なんて大層なこと考えてないぞ』
あっけらかんとした様子の綴に万里は思わず呆れた眼差しを向ける。万里の眼差しに綴は困ったように微笑むと答えを求める万里に返す言葉を模索する。
『……ブラッドは過去の十座そのものとして書いた』
『…………俺も当て書きだろ』
『……。分かるか?』
『問答無用で即配役決まったっつの』
あはは、と乾いた笑い声を出すと綴は肩の力を抜くように息を吐き出した。そうして真っ直ぐに万里を見つめた瞳は人の温もりを宿した翠玉の色を滲ませていた。
『ダストは万里の当て書きだよ』
『分かった。じゃあ、あとはそれを俺が肉付けしてきゃいいんだな。これ以上は役者の俺が脚本家サマの期待に応えねーとな』
『おお……?』
『もっと突っ込んでくると思っただろ?』
揶揄うように笑った万里へ綴は眉尻を下げて頷いた。
『ああ、次なんて答えようか内心焦ってた。ほっとしたわ』
『全く……。抜けてんだか鋭いんだか分かんねーわ。俺はとことん秋組だって思ったよ』
万里の言葉に目を泳がせた綴へ『春組家族こえー』とわざとらしく一言残すと万里は一〇二号室を後にしようとして──閉まる扉を掴んで追加の一言を述べた。
『綴、サンキューな』
言葉に込められた一つだけではない感謝の想いに綴は酷く幸せそうに微笑んだ。
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ダストは俺だけど俺じゃねぇし、ブラッドも兵頭だけど兵頭じゃなかった。
思えば第五回公演まで敵対すらしていなかった俺と兵頭の配役に気付いた時には綴に〝してやられた〟と心底頭を抱えた。おまけに先の満開公演じゃ── 優しい脚本家の姿が頭に浮かんで溜め息を吐き出す。
幼馴染。よりにもよって。俺と兵頭が。勿論佐久間咲也演じるサクも複雑な境遇だが共に育った仲であり、自身が演じたダグは兵頭演じるティグではなくサクと確執があった。それについても今思うとしてやられたとしか言いようがない。
兵頭はダグとサクの関係をどう感じただろうか。綴は兵頭に何を経験させようとしてんだと呆れたところであの優しい脚本家は無自覚だったと末恐ろしくなった。そうして第六回公演当時の葉大生三人へ時折抱いていた感情があまりに複雑で、万里は胸の辺りをぎゅっと握り締める。
兵頭の葉星大学進学が決まった時どうでもいいふりを装いながらも臣と綴がいる葉星大を選んだことがどうしようもなく、嬉しかった。アイツは一人じゃまた誤解されて終わっちまう。俺が言えたことじゃねぇけどつまんねー奴につまんねー因縁つけられてまた不良のレッテルを貼られるに決まってる。だから臣と綴と大学に通う兵頭の姿は特段面白みはないがどうしようもなく胸がざわついて、そして〝らしい〟と思った。面白みはないとは思うものの、同じ大学のよしみからのあの第六回公演での臣と綴の行動は今思えばなかなかにえぐいもんがあった。絆、とでもいうのか。臣が色々と大学進学の相談に乗ってたみてぇだしバイクにカメラと兵頭は趣味も臣と共通してたり影響されたもんが多かったから進学先に納得もいったし、秋組内でそういったことを兵頭と共有できんのはきっと臣だけだ。適材適所でいい塩梅だ。
だからこそ、俺には俺にしかできないことがある。ダスト演じんのは未だにルチアーノの次に気合い入るし、いい刺激にもなるしな。何より── ダストを演じる己に問う。
「お前がいれば大丈夫なんだろうな、俺は」
もう一度。今度は無意識でなく確かに口にしたこの言葉は配信が決まる前に聞いた兵頭の言葉が全てだ。あの言葉で配信に踏ん切りがついた。
兵頭が、俺を〝ダスト〟にさせなかった。お前がいるから大丈夫だった。兵頭十座が俺を人間にした。本物の痛みや喜びを痛感し始めたのは、取り戻させたのは兵頭十座だ。
そして俺は天立甲に出会い、〝無関心〟を知った。
俺は今まで〝無関心〟の中で生きてきた。何でも人並み以上に熟す俺と張り合う気にもならない張り合っても無駄だと切り捨てられた俺は、心の底から褒められることも祝福されることもなくなった俺は、無関心の中にいた。そう思っていた。
天立甲の俺に対する無関心は、俺が周りに対して抱いてきた〝無関心〟だった。俺自身が周りにしてきたことを知った。まぁ過去の自分だと自覚したのは配信終わって色々とすっきりしてからだけど……。
暖簾に腕押しみてぇに何聞いても反応は変わらずで演劇でなければならない理由を、俺という役者の意味を、証明しようと躍起になった。そうして兵頭が第六回公演で踠き苦しんだ焦りがどれほどのものか、ようやく理解した。
これは俺と兵頭二人だけでは共有できなかったものだ。
兵頭に対して感じる焦りも、羨望も、嫉妬も、全部返ってくるものだったから。だから俺は無関心なんてものとは兵頭に出会ってからすっかり忘れちまってた。兵頭だけじゃない。MANKAIカンパニーのメンバーがいたから尚更だ。太一に、臣に、左京さん。咲也に、天馬に、紬さんに、丞さん。そうして各組六人目のメンバーが加入して。自分に負けじと向かってくる年下の存在と、自分の触れたことない分野を器用に熟す年上の存在は俺の対抗心を刺激したし楽しくて仕方がなかった。そこには自分自身、殊更素直になれない存在である兵頭とは共有できないものがあった。
初主演が決まった兵頭の目に何が見えていたのかは分からない。
主演を経験済みの俺を、リーダーとしての俺を、普段の俺を、見て焦りを感じたのかも分からない。俺の対抗心は常に一番にお前に向いていたから、兵頭の様子には少なからず衝撃も受けた。けどあいつは乗り越えて立ち上がったし諦めなかったから─俺の与り知らない所で講師の桝野さんだったり面白くねーとは思ったけど─色んなキッカケが重なって自分の限界と向き合ったあの時の兵頭はそれでも俺にとっては輝いて見えたんだ。
向き合えば必ず返ってくる。そこから得られる歓喜も興奮も、外に出たら当然じゃねぇって俺は今回知った。井の中の蛙ってやつだ。一周して昔の自分に戻ってたんじゃねーかって寮を離れて思い返した時はほんと情けなかったわ。それを兵頭はきっと桝野さんの件やその後始まった風林火山の客演で先に知ってたんだろう。──言えよ。…いや、話したこともあれば言うはずがないこともあった。
基本的にあいつが周りから跳ね返される感情ってマイナスのもんだったし。あいつは人を真っ直ぐ尊敬する。そういう投げたら返ってくる、って反応をあいつは当然じゃないって元々知ってる奴だったから。だから俺が色々やってることにも黙ってた。けどあいつはいつも真っ直ぐ見ていてくれた。それは分かった。そっから演出助手を選んだ俺に『役者辞めんのか?』って聞いてきた時もそもそも何を躍起になってんのかについては深く突っ込んでこなかった。
見てんじゃねーよって最初は不愉快だったけどそれは兵頭の前で格好付かないからって俺の勝手な理由で、俺って兵頭の前で格好付けてたんだなってすげぇ頭抱えた。多分この先もあいつの前では素直になれねーから何度も格好付ける。そんな格好悪さもあいつは黙っていつものあの瞳で見てるんだろう。だから一昨日の晩も、
『だせぇ。……けど、くそかっこよかった』
……素直に打ち明けることができたなら。素直に打ち明けたなら、あいつは絶対笑わなかった。笑わねぇけどその後にふ、と息を漏らして「気持ち悪ぃ」って俺の心を騒つかせたに違いない。あの穏やかな熱を宿した瞳で俺を見たんだろう。
だせぇけどかっこいいなんてそんなん……、
俺が目指す一番かっこいい生き方は───〝誰かの人生を変えちまうくらいの芝居〟は、俺の人生を変えちまった芝居は、〝心からの渇望剥き出しのがむしゃらな一人芝居〟でそんな一人芝居を全身全霊で全神経を使ってぶつけてきた『役者』からそんな言葉をもらったらどうしようもなくなるだろうが。
それに普通、人の親にあんなこと言うか? 当時はそう思ったがそれを言えるのは兵頭が兵頭だからだ。演劇じゃなきゃならない理由を持っていて、役者としての自分に俺という役者を必要としてくれた兵頭だから言えた言葉だ。
あの言葉があったから、監督ちゃん至さん千景さんの提案に三人の言葉に踏ん切りついてすぐに何をするかも決められた。あの配信ができた。そして兵頭にとってどうやらだせぇけどくそかっこよかった〝らしい〟俺に繋がったんだ。
「………言うしかねぇよな」
デスクに手を突き、ウッドチェアから立ち上がると万里は一〇四号室を飛び出した。
✴︎
「どうしたの、万里」
勢いよく談話室に駆け込んだ万里にソファでソーシャルゲームを楽しみ寛いでいた至は目を丸くした。談話室を見回し、キッチンに臣、ダイニングテーブルに酒盛りするいつものメンツ、ソファでファッション誌を読む太一を順々に確認してから長い沈黙を経て誰にでもなく問い掛けた。
「兵頭は?」
「十座? 十座なら実家帰りです」
「は?」
「寮に戻ってきたものの同室相手が相変わらずなので実家に帰らせていただきます、だって」
「至サンっ!」
慌てて至の揶揄いを制止した太一が眉尻を下げて「それ以上意地悪はダメッスよ~」と訴えた。伏見臣もキッチンから出てきて至と太一に夜食を差し出しながらやんわりと諫める言葉を口にした。そうして万里をフォローするように事情を説明する。
「十座ならさっき親御さんから連絡があってな。それで戻ったんだ、九門も一緒だ」
弟の兵頭九門が一緒であるなら先の出来事が要因ではないだろう。臣の言葉に深く息を吐き出してしゃがみ込んだ万里に談話室にいるメンバーはそれぞれに顔を見合わせた。
「……なんか喧嘩してるような声だけは聞こえたんだけどさ。程々にしなよ? 満開公演の幼馴染役、サマになってたよねぇ? 紬サン?丞サン?」
「うん。すごくよかったよ」
「兵頭は副船長としてもいい女房役だったんじゃないか」
「女房じゃねーし!!!」
「女房役だ、落ち着け摂津」
次々と飛び交う会話と古市左京の駄目押しに雪白東はくすくすと楽しそうに微笑んだ。すっかり立ち上がった万里は左京の駄目押しに「んなこと分かってる!」としっかり反発してから太一の横に腰を下ろした。
「臣、俺も夜食食う……」
「伏見に甘えるな。伏見も甘やかすんじゃねぇぞ。あれだけ喧嘩で痛い目見といて兵頭と喧嘩するたぁどういう了見だ、喧嘩をやめるなら一番身近な兵頭とからだろうが」
左京の説教に片耳を塞いだ万里は「口喧嘩だし」と再び憎まれ口を叩いた。「そういうことじゃねぇ!!」と左京の雷が落ち静まり返った談話室に一件の通知音が響く。
自身のスマートフォンだと気付いてLIMEの通知相手を確認した万里は立ち上がると背を向けて談話室の入口付近へ向かった。
「え、分かりやす……」
「十座くんからかな?」
「兵頭なんだろ」
「十座サン、きちんとしてるッスからね」
「ああ。講義が変更になって帰りが合わない時は必ず連絡をくれたな」
「そうなんスよー!」
「報連相は大事だからな」
「ふふ、左京くん嬉しそうだね」
七人の言葉も耳に届かない様子で万里はLIMEのメッセージを目で追った。
『家の用事で今日はそのまま泊まるが明日には帰る』
家に泊まるって日本語おかしいだろ。それに帰るってなんだ。………お前の家は、ここなのか。
たった一文。それだけで喜んでいる自分は安いもので先程までの頑なさが馬鹿馬鹿しくなった。口元を押さえているとメッセージが再び入る。
『めんどくせぇから言っとくがそういうわけだから探すな。てめぇの一言で俺が気まずくなったと思うなよ』
腹立たしいことこの上ないが、こうしてわざわざ言い返してくる兵頭の態度に自身の感情が追いつかない。緩む口元を押さえながら万里は一言『うるせー』と返した。帰ってくるな、とは言えそうにない。
ずっと、お前との同室生活の再開を楽しみにしていたんだ。
耳を赤く染めた万里の後ろ姿に─楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうに、─各々微笑むと臣は万里へ「夜食できたぞ」と声を掛けた。
✴︎
『うるせー』のメッセージに安堵すると十座は目を閉じた。ベッドの上で目を閉じ、万里を想いあの言葉の向かう先を想った。
〝お前がいれば大丈夫なんだろうな、俺は〟
その言葉は果たして誰に向けたものなのだろう。もしかしたら天美で課題に出された役のセリフかもしれない。そう考えながらも万里が「お前」と呼ばう相手が劇団員内に何人いただろうかと思い起こそうとして、自分はあの言葉が夢でもなく勘違いでもなく自身へ向けた真実であってほしかったのだと理解した。
この感情が何なのかは分からない。他者との関わりが増えた欲からあの一言に焦がれたのか、それとも万里へ役者としてライバルとして向ける感情がそうさせたのか。どちらなのかは判然としない。言葉の向かう先が分かれば解決するだろうか。けれど何度もしつこく聞くことは躊躇われた。遠慮からではなく純粋に万里との諍いに困惑する自身の心を落ち着けようがないからだ。十座は先程のやり取りで意外にも傷付いている自身の心に驚き、困惑した。そうして自室に戻るにもどうしたものかと考えている内に母から連絡が入った。母からの連絡は緊急の用向きではなかったが、突然帰省し突然出て行った息子二人に多少の寂しさを感じたであろうことは何となく察しがついた。勿論母は自分達を信じいつも見守ってくれた。母個人の感情や弱さで子を縛り付けることもなければ子に弱い心を微塵も気付かせない強い母であった。だから今回自分が傷付いていたからこそ気付くことができた母の心の隙に寄り添いたいと思った。今はまだこうして共に過ごすことでしか親孝行はできないが、家族からの愛情と演劇を始めたことで出会えた関わりに共に過ごす時間の大切さを最近特に強く感じていた。実家を離れ、寮を離れたからだけではない。──あの配信を想う。たった一つ、掴んだこの道しか持たない自分もまた同じように出会えた大切な関わりを手放せるはずもなかった。
遠くで響いたエンジン音に十座は閉じていた目蓋を開き、じっと天井を見つめた。
「お前がいるから大丈夫なんだろうな、俺は」
そう言葉を紡いで右腕で目を覆う。向かう先が自分であってほしい願望どころか自分自身が抱く感情と一致してしまったその言葉に胸が軋んだ。貰いたかった言葉を自分のものにしてしまった心が、痛い。
「………どう顔合わせりゃいいか分かんねぇ…」
呟いた弱音が闇に溶けると十座はそのまま布団に潜り込んだ。
✴︎
講義を終え、実習を終え、寄り道もせず急くように帰路についた万里はMANKAI寮の玄関で二の足を踏んだ。自分と違い講義のみの十座は先に帰宅済みだろう。顔を合わせた時ににやけそうになるかもしれない。絶対にバレたくねぇ……。玄関前でうろうろと往復し始めた万里にガレージ側から声が掛かった。ぴたり、と足を止めて振り返ると兵頭十座がそこにいた。
「………何してんだ、てめぇ」
「はぁ? 見りゃ分かんだろ! 大学から帰ってきたんだよ!!」
「……ただの不審者にしか見えなかったが……」
万里の言葉に信じられないものを見るような目で驚いてから眉間の皺を深くした十座は何か思い立ったように玄関扉を引っ掴んだ。
「監督! 支配人! 玄関に不審者がいるから塩持ってきてくれ」
「アア゛!? 兵頭てんめぇ!!」
早速口喧嘩を始めた万里と十座は予期せぬ再会に互いに胸を撫で下ろした。深刻になってみたところで自分達など顔を合わせれば所詮こんなものなのだ。
監督を守る為と塩を持って現れた真澄は二人の姿にただただ冷たい視線を向け、監督は「喧嘩してるのになんだか楽しそうだね」と微笑んだ。監督のその一言に我に返った二人は揃って忌々しそうに否定をし揃って自室へ戻っていった。その後ろ姿を見送りながら真澄はぽつりと呟く。
「綴が仲が良いって言ってたけど。あながち間違いじゃないってのは分かった」
「ふふ、そうだね」
「ったく。人を不審者扱いしやがって」
「お前は根が不審者だろう。人を追いかけ回すしつこい粘着野郎が」
その言葉に再び言い返そうとして万里は喉元まで出かかった悪態を飲み込む。互いに背を向け帰宅後の片付けや明日の準備を済ませたところで何の気無しに視線がかち合った。かち合った視線を先に逸らした十座を万里は珍しく思う。いつもならば静かに見据える十座と睨み付けたあと気に入らないといった態度を露わにし顔を背ける万里、というやり取りなのだが視線をすぐに逸らした十座の様子に気付けば万里は口を開いていた。
「おい、なに目逸らしてんだよ」
「不審者と目合わせてられるか」
苦し紛れに感じなくもない十座の言葉に万里は違和感を覚え、共用スペースで背を向け座る十座の隣に腰を下ろした。肩を掴んで振り向かせた十座の瞳に瞬く光を見たような気がして思わず万里は目を見開いた。
「………うるせぇ」
「……はっ、昨日のことで落ち込んでんのか?」
昨夜、正直に伝えようと決心したというのに心はこんなにも弱く逃げ出す糸口ばかり探してしまう。そうして揺らいだ万里の群青の瞳を揶揄われた十座当人は見逃さなかった。光が当たると淡く光り、睫毛によって落ちる影で深さを増す万里の瞳が十座は嫌いではなかった。その瞳にライバルとして応えていきたいとも思う。だからこそ同様に、応えてほしかった。
「………落ち込んでる」
「…………は?」
素直に落ち込んでいることを認め俯いた十座の様子に万里は驚くことしかできない。暫しの間、沈黙が流れ耐えきれなくなった十座が沈黙を破るように「ただそれだけだ」と囁いた。話を切り上げようとした十座の手首を咄嗟に掴んだ万里は十座の頬に手を添えると上向かせた。上向いた先、万里の頬が上気していて十座はその意外な反応に目を瞬かせた。
「なんでっ……! なに、落ち込んでんだよ」
必死な様子で訊ねる万里に十座は思わず空いていた左手を突き出した。顔が近い。
「………ちけぇ」
「わ、悪ぃ」
慌てて離れたが頬と手首に寄せた手は離さなかった。伏し目がちな十座の視線にこっちを向けと必死に瞳で訴える。
「兵頭、目見えねぇ」
「……見なくていい」
「見てぇから見せて?」
そう言って十座の左目に掛かる前髪一房を掻き上げると十座がおずおずと視線を上げた。赤く染まった目尻に、真っ直ぐ交わった視線に、鼓動が高鳴る。
「見んな」
「………兵頭」
確かに交わる視線で、向かい合う瞳で、見るなと言われても無理な話だ。非難するように寄せられた眉間の皺とは裏腹に燈を灯して瞬く瞳がどうしようもなく可笑しくて、どうしようもなく愛しくて、万里は破顔した。
「お前がいれば大丈夫なんだろうな、俺は」
伝えたい想いを言葉にした満足から思わず十座を抱き締めた万里はたっぷり時間を空けてからまずいことをしていると思い至った。拳が飛んでくるかもしれない。しかし今更慌てて身体を離すのも格好悪くてそのまま抱き締め続けていると十座が身体を硬直させ固まっていることに気が付いた。
「ひょ、兵頭……?」
顔が見える位置まで身体を離すと十座は止めていたらしい息を思いきり吐き出した。
「そんな強く抱き締めたつもりねーけど……」
「………強く抱き締めた? 俺とお前の間で絶対に交わさねぇような言葉を吐くんじゃねぇ……!」
いつもの様子で睨み付けてきた十座に万里は目を瞠ったあと「それもそうだな」と呟いて無実を証明するように両腕を離した。
先程の一言から伝わって変わったものは今、確かにあるはずだ。
万里が十座の普段通りの横柄さに先程の赤く染まった目尻は見間違いか?と首を傾げていると十座は万里の両頬を鷲掴み上向かせた。睨むように見据えて負けじと伝えてきた言葉に万里は満足そうに目を細めてはにかんだ。
「何度でも起き上がらせてやる。忘れんな」
そうして胸を小突いた拳の熱さを俺は一生忘れず墓場まで持っていくんだろう。
続く
秋単2023千秋楽を見終え、12月23日に突然一夜漬けで書いた話です。秋単によって温めてたネタを思い出し、すぐ書こう!今書こう!と思い立った記憶があります。恋愛色控えめにして少しずつ恋人同士になる二人が書きたいという気持ちでシリーズものにしました。恋愛色控えめができてるかどうかはよく分かりませんが控えめにしてる方です。ちょいちょい幕間というタイトルの小話を挟みつつ、第八回公演当時の二人へと続いていく予定です。四話目くらいにR指定になります。似たような話ばっかり書いてる気がする。まぁいいか!